管楽器演奏者は口の周りをそれぞれの楽器に合わせて特殊な使い方をしながら演奏をしています。管楽器を演奏する際に、歯は裏から支えたりなど、さまざまな重要な役割を果たしています。つまり歯は楽器の一部となります。
管楽器を演奏する際の気道や口腔領域の組織、器官の形態などの状態をアンブシュアと言い、口周りの筋肉と歯並びや歯の状態によっては、アンブシュアで様々な問題が起こることが知られています。歯並びや顎の骨格は人によって様々ですが、楽器の演奏法を学ぶときは、標定とされたアンブシュア指導がされることがほとんどのようです。特に西洋人と日本人では口腔内の形態および歯並びが異なるものなのですが、西洋の教則本通りのアンブシュアを指導することで、本来、個人個人の持つ効果的なアンブシュアではないものを強要されることがあるようです。そのことが原因で、バテやすいという問題が起きやすくなります。
まずは管楽器奏者一人一人が、口周りの筋肉の種類や働き、また歯並びや歯の状態についてきちんと理解することが大切であると考えられています。
管楽器吹奏者の歯並びについて
極端な出っ歯や受け口はもちろん演奏に影響が出てしまいます。管楽器は前歯がたっているほうが演奏しやすい傾向があり、よって前歯の傾斜がきつい場合には不利になります。犬歯がデコボコの場合、前歯はたっていることが多いため、前歯のデコボコが軽度であれば問題はあまりないと言われています。
前歯の傾斜が演奏に影響しやすい楽器としては、カップ型マウスピースのトランペットであったり、トロンボーンなどの金管楽器が挙げられます。また、リードがあるクラリネットやオーボエの場合は、唇を巻き込みながら演奏しますので、前歯がデコボコしていると唇に痛みを感じることがある場合もあります。
金管楽器を演奏される方で歯並びに問題がある場合、上顎の歯の形態を変化させたり、アダプターという装置を使って治療されることがあります。木管楽器を演奏されている方は、下顎前歯の歯並びが「叢生(そうせい)」というデコボコした歯並びになっていると、リードと前歯に挟まれた口唇に傷が出来てしまうことがあります。この場合には歯科医院で製作する「リップシールド」という装置が役立ちます。リップシールドは「木管用アダプター」または「アンブシュアエイド」などとも呼ばれており、前歯を覆う取り外しが可能な装置です。
通常であれば、下の前歯を覆う形が主流ですが、上下両方の口唇で音を作る「ダブルリップアンブシュア」を使う場合には、上の前歯に装着することもあります。 歯並びに悩みがあっても管楽器を演奏するため、歯列矯正は無理だと思っている方がいらっしゃいますが、多くの歯科医が矯正器具をつけたままでも演奏が可能だと提唱しています。
演奏は可能ですが、慣れるまでは演奏しにくいと感じてしまうことが多いです。特に、演奏時の形が出来ている上級者の場合は、装置を装着することで口唇の微妙な変化を感じてしまい、難しい音が出しにくくなる可能性があります。矯正装置は、慣れてくるまで時間がかかります。そのため大切なコンクールや演奏会の直前には、矯正装置をつけることはお勧めできません。また矯正装置に慣れた後も、吹くと疲れやすくなったり、唇に傷ができやすい、前と同じ音が出ない等といった影響が残る可能性があります。特に抜歯をして矯正治療をする場合は、最初のうちは歯を抜いた隙間も大きく、歯並びも日々変わっていくので、上級者の方は安定した演奏が難しく感じてしまうかもしれません。
カップ型マウスピースのトランペットであったり、トロンボーンなどの金管楽器の場合は、マウスピースを唇に押しつけるため、矯正装置の出っ張りが気になったり、音域に変化が出てしまう可能性があります。
またフルートの場合は、前歯に装置がつくことにより、主に下唇が前歯の上を滑らかに動かなくなってしまうため、微妙な調整がしにくくなる可能性が考えられます。一方で、矯正治療をはじめて半年以上経過し、装置にも慣れている方であれば、管楽器を始めても不具合を感じることは少ないでしょう。
矯正装置はどんなものが適しているか
楽器演奏をすることだけを重点的に考えれば、なるべく小さい装置、あるいは取り外しが可能なマウスピース矯正装置などが良いでしょう。しかし、マウスピース矯正装置は、歯を抜く治療には向いていません。また細かい歯のコントロールも難しくなります。矯正装置にカバーをつけて、唇への接触を緩和する方法もありますが、歯の移動が遅くなってしまったり、装置をつけている時と、つけていない時の感覚の違いが気になる場合があります。
歯科医によっては「リンガル矯正」または「裏側矯正」という矯正装置を歯の表ではなく、裏につけるものを勧めることがあります。 これは唇や頬粘膜の損傷防止にはなりますが、管楽器を演奏するにおいて、「タンギング」という舌を使って空気の流れをコントロールし、音の区切りや立ち上がりを明瞭とする奏法が重要で、これは下を歯の裏側に当てる必要があるため、タンギングへの影響を考慮すると、歯の表に装置を付けるものとどちらが良いとは言えません。また、シングルリード楽器の場合、理論的には上顎に表側装置、下顎に裏側装置をつけるようアレンジをすることで、演奏への影響を少なく出来ると考えられますが、通常の治療ではほとんど選択されない装置の組み合わせになります。
また、楽器が歯に当たるため、その圧力が歯の矯正の力として働く可能性はあります。そのため管楽器によって歯が動く方向が、矯正治療によって動かそうとしている方向と反対へ動いてしまう場合は、矯正治療が長引くことがあります。
今回の題材である、「歯並びが管楽器の演奏に影響するのか」という問題に対しては、一般的に矯正治療が完了し、装置をはずした後は、歯並びが改善されることで、楽器を吹くときの口の形が安定しますので、より良い演奏ができるようになると言えるでしょう。口や歯、顎などの形は人それぞれで、また生じるトラブルもそれぞれ異なります。もしもトラブルを感じたら、まずは信頼のおける大分県の歯科医に相談されることをオススメいたします。